象嵌をする器の大きさや形を考え、スケッチします。そのあと、油ねんどでかたちをつくり、これを石膏の型におきかえます。または、硬い発泡スチロール(ポリスチレンフォーム)などを使ってかたちをつくることもあります。
加賀象嵌の作業工程
象嵌作品は実際にどのようにして作られていくのか。
鋳物の原型作りから、表面研磨まで、作業工程を追いながらご説明します。
01本体をデザインする
Design
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鋳物づくりの専門家に石膏の型を渡し、本体を金属でつくってもらいます。できた本体は、ヤスリや砥石などできれいに形や表面を整えます。
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彫る前に象嵌のもようを、本体とのバランスをよく考えてから決めておきます。
02彫る
Carve
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本体に、ケガキ棒やケガキコンパスなどでもようの輪郭(ものの周囲をかたどっている線)をつけます。そのあとで、溶かした松やに(松の木からとれる樹脂で、冷えると固まります)を器の中につめておきます。中が空洞のままだと彫るときに音が響いてうるさく、本体がへこんだりゆがんだりする上、軽いままだと彫るときに本体がずれることもあるため、松やにをつめることでこれを防ぎます。
このあと、別の金属(=紋金)をはめこむ部分の縁だけを、「線彫りタガネ」という道具で彫ります。一度に深く彫りすぎないよう、少しずつ彫るようにします。
平象嵌、重ね象嵌のように板を象嵌する場合は、深さが均一になるよう格子状(碁盤の目のようになっていること)に彫ります。
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さらに、平たいタガネを使い、先ほど下彫りした縁の深さに合わせて彫り下げます。このとき、あとではめこむ金属をあてて、深さをチェックしながら進めます。また、タガネで彫られた部分は凸凹になっているので、さまざまな道具を使って平らにしておきます。
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アリタガネという道具で、彫った部分の底を広げます。この作業を「アリ溝立て」といいます。これをすることで紋金※は、たたき入れるだけではずれなくなります。
※彫った中にはめこむ別の金属のことを「紋金」といいます。
03はめる(重ねる)
Inlay
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紋金に使う金属を、糸のこやヤスリなどを使って彫った部分にぴったりはまるようにします。写真の紋金はシンプルですが、もようによってはさまざまな形のものをつくります。
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紋金に熱を加え、やわらかくします。これを「金属をなます」といいます。このとき加熱しすぎると紋金が溶けてしまうので注意が必要です。
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紋金を彫った部分に置き、「打ちこみタガネ」という道具でつぶすように打っていきます。タガネは紋金よりかたい「炭素鋼」という素材でつくられているので、やわらかい紋金が伸びてアリ溝に引っかかります。
04磨く
Polish
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象嵌をした部分にヤスリやキサゲをかけ、紋金をうめた部分のでっぱりをなくします。ヤスリは、最初は目の荒いものから順番に細かいものにしていきます。
そのあと、朴炭などの炭を使って水砥ぎをして、それから朴炭よりやわらかい桐炭で磨き、表面の細かい傷を取ります。さらに朴炭を粉状にした炭粉で磨きます。磨くことで表面につやが出て、脂分がとれます。
05着色する
Color
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作品の表面を大根おろしで洗い、よく脱脂(あぶら分をとること)します。科学的な理由はよく分かっていませんが、昔からこうすることで、着色するとき表面の色がくすむのを防いできました。また、金属の表面にしみができたり、色が変わりすぎたりすることを防ぐこともできます。
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硫酸銅と緑青という物質をまぜあわせた液で作品を煮ます。液に入れっぱなしにするのではなく、常に液をかきまぜ、10〜15分ごとに鍋から取り出して色合いをチェックします。このとき、表面が乾かないよう冷水につけながらチェックし、自分が思う色合いになるまで、大根おろしをつけては煮る作業を繰り返します。
06仕上げる
Finish
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好みの色になってから、やわらかい布で水分をふきとります。水分が残っている部分がしみになるときがあるため、熱して水分をとばします。最後に、変色を防ぐため表面に膜をつけます。昔は蜜蝋(ミツバチの巣でつくるロウ)を溶かして全体にぬっていましたが、近年は透明な化学塗料をうすくふきつけています。