象嵌とは、花瓶や香炉などの金属素地の表面を鏨(たがね)で彫って、出来た溝にその素地と違う金属(金、銀や銅合金等の線や板)を嵌め込むという、彫金技法の一つです。
藩政時代は武士の世の中でしたので、主に刀の鍔(つば)などをはじめとする刀装具や、馬の鐙(あぶみ)等の金属表面に模様をつける加飾技法の一つとして用いられました。当時は金沢を中心としたあたりは、加賀の国だった訳ですから、加賀象嵌と呼ばれたのでしょう。
勿論、彫金の名の通り、様々な種類の鏨で彫った溝によって、文様を現すことも出来るわけですが、それではあまり目立ちません。当時としては、コンプレッサーで吹き付け塗装するわけにもいかず、奈良の大仏さんのように鍍金(ときん)<メッキのこと>をするか、象嵌でもって金や銀を嵌め込むことによって、模様を表現し色を出そうとしたということです。
今お話しているのは、金属工芸の中の象嵌ですが、広く言えば、金工の他、木工や焼き物にも象嵌技法は存在します。素材が違いますから、技法のすべてが同じと言うわけにはいきませんが、素地と違う色の同じ素材を嵌め込んであるという点では一致しています。また現代では、金属同士でなくても、例えば、金属に石など異素材のものを嵌め込むこともあり得えます。