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金 属 工 芸 の 世 界 | ![]() |
金属は古くより「金・銀・銅・錫・鉄」の五種類が代表的なもので、これらは「五金」といわれ金属工芸の主要な材料として用いられてきました。たとえば硬く堅牢性にすぐれていることから、仏像や刀剣、甲冑などの武器の製造に用いられたり、熱伝導にすぐれ耐熱性が強いことから茶釜や鉄瓶として、そして叩くと音色を発することから鐘や鈴にも利用されています。また、金属が持つ独特の色彩や光沢を活かした、置物や花器、装身具など、美術工芸品の分野において、金属工芸ならではの美しい世界を築きあげています。 金属工芸の技法には、おおまかに、“彫ったり嵌めたりする「彫金」の技法”“板状の金属を立体に加工する技術「鍛金」の技法”“金属を溶かして造型された鋳型に流し込む「鋳金」の技法”があります。それらの技術によって、溶けたり延びたりといった金属個々の特性をうまく利用し、あらゆる金属製品が創りだされています。 |
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象 嵌 に つ い て | ![]() |
【象嵌とは】 |
金属、陶磁器、木材などに模様を刻み込み、そこに金銀その他の材料をはめ込んで装飾を施す技法のことを「象嵌」といいます。金属象眼は彫金技法のひとつとして重要な表現方法で、加賀象嵌の主流をなす「平象嵌」をはじめ、いろいろな象嵌技法があります。 |
【加賀象嵌の歴史】 |
加賀象嵌の歴史は、16世紀末、加賀を支配した前田家が京都方面から技術を導入して始まりました。当初は、武具や馬具などの製造に必須の技術で、加賀象嵌には、武士の魂−刀を飾る様々な刀装金具類と、騎乗の際に足を置く馬具−鐙<あぶみ>の二つの系統がありました。藩は、それぞれ優れた技を持つ者を御細工人に登用し、奨励策によって磨かれた技能は、町方の職人たちにも強い影響を与えて隆盛を極め、加賀象嵌は、加賀特産の金工品として名声を博しました。 しかし、武家社会が崩壊すると象嵌の仕事は激減して多くの象嵌師たちが廃業してゆきます。それでも、政府による明治6年(1873)のウィーン万国博覧会出品を契機として、海外輸出向けの大型花器などの製作にその力量を発揮しはじめます。こうして加賀象嵌は、これまでとは全く異なる造形として受け継がれ、命脈を保つのです。宗桂会ゆかりの初代山川孝次は、この困難な転換期を生きた加賀象嵌のリーダーの一人として活躍した名匠でした。 昭和の戦後以降の金沢では、後継者が少なく技の継承が心配されていましたが、近年、象嵌に取り組む若い人が少しずつ増えてきています。今後は、これからの時代に相応しい象嵌による創作表現に挑戦する作家たちの新鮮で多彩な活躍が楽しみになってきました。 |
【加賀象嵌の技法】 |
加賀象嵌の華麗で洗練された文様には、傑出した意匠感覚の鋭さがありますが、この優れた表現は精緻な技法に支えられています。金属素地の文様部分を鏨<たがね>で表面より底部を広げて彫り削って(このことをアリを切るという)、別の金属を嵌め込んで打ちならします。すると、文様となる金属が表面より内部で広がった状態となって外れなくなるのです。この接合方法を加賀ではとりわけ精密に行って、豊かな表現を可能にするとともに、堅牢な仕事としての評判を高めました。 なかでも「鐙」は、加賀象嵌の代名詞でもあり、その卓越したデザインの斬新さと豪華さに加え、加賀象嵌は絶対に外れないと言われた技の入念さによって知られていました。 |
【象嵌技法いろいろ】 |
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高肉象嵌 器物の表面より象嵌部分が盛り上がり肉厚の模様をなす |
肉合象嵌 器物の表面より象嵌部分を鏨で彫り下げる |
線象嵌 線だけで表現する |
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高象嵌 太線を器物の表面より高く埋め込む |
平象嵌 器物表面と象嵌部分を同一表面にして模様をだす |
【象嵌制作工程】 |
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黒味銅板素地をヤスリで平滑面にし、ゲージや複写紙を用いて図を描く。 |
図の輪郭を鏨で彫る。 |
線彫り内を面彫りした後、彫り部分をキサゲで平滑にする。 |
彫られた部分の輪郭を表より底部が広がった逆テーパーにする。 |
彫られた形状にあわせて銀の板で同一の形をつくり、それを彫り部分に打ち込む。 |
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6 | 7 | 8 | 9 | 10 | ||||
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銀象嵌部分の上に重ねて赤銅を象嵌する。 |
金 (足)、銅 (頭) 部分を象嵌する。 |
全体を油目ヤスリを掛けた後、砥石で平滑面にする。 |
朴炭で磨いた後、炭粉で鏡面に仕上げる。 |
緑青と硫酸銅液の中で煮て、各金属を発色させる。 |
【専門塾の紹介】 | |
象嵌と彫金の技を習得し、伝統技法を次世代へと伝える後継者づくりを目的として平成10年6月に「加賀象嵌・彫金専門塾」が開校されました。この専門塾は金沢市の助成のもと、公益財団法人宗桂会が運営を担い、平成13年3月には第一期生が卒業をむかえました。現在は平成16年4月にスタートした第三期生が、それぞれの専門コースで学んでいます。 | ![]() |
専門塾第一期生たち |
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