中川衛「世界の象嵌と加賀象嵌」

第1回 第2回 第3回 第4回 第5回(最終回)


平成9年に中川 衛氏が象嵌について講演された際の内容をまとめ、シリーズでお届けします。

第2回
金属工芸の特徴
中川 衛氏 金沢美術工芸大学教授
重要無形文化財保持者

鏨(たがね)づくり

 象嵌を始めるとなる数百本の異なる鏨(たがね)が必要です。線の太さ、直線・曲線のアリ立て、それから、例えば桜の花びらを掘るときもまた専用の鏨が要る。はじめは鏨を作って象嵌をしていかなければならなく、また材料の方も全部自分でつくらなければならないので、作品制作までに大変時間がかかりました。

  これは余談ですが、刀も鏨作りと一緒です。刀は波紋が入っていますが、ただ、波紋が入っているのではないのです。波のある下だけが鋼で上の部分は柔らかく、この2つの部分があるから折れなくて切れるのです。その方法は上の方に土を多く塗り、下は少なく付けて刀を真赤に焼いて水の中にざっと入れる。上は土が付いているから焼きが入らなくて、下だけが入るので、波紋ができるのです。刀はつくっているときは直刀に近い形ですが、じゅっと水に入れると少し曲がる。刀はそういうふうにしてつくるのです。

  鏨の刃の付け方は、先の方に石鹸をつける方法があります。石鹸をつけて焼くと、どこまで焼きが入ってくるのかがわかるのです。石鹸を塗ると鏨の焼き入れ部分が白く出てくるのです。


象嵌壁面「永久に飛ぶ」中川 衛(宗桂会館ロビー)
  話はかわりますが、熊本(肥後象眼)や京都で今日でも行われている布目象眼は、例えば板があったら、そこにずっと目を細かく切っていくのです。切られた目の断面を見ますと起き上がっています。そこへ薄い箔のようなものを押さえつけて貼るのです。そうすると銀や金がくっつきます。ちょうど荒いヤスリだと目が詰まらないのですが、細の目のヤスリだとヤスリ目が詰まってしまうようなものです。細かく目を切ることでくっつきをよくしています。スペインのトレドで買ってきたものは、長い目が付いています。これは、手ではやっていないようでグラインダーなどで線状の目をつけている。お土産屋さんなどへ行くと、一つ一つやっているように見せていますが、室内の奥でグラインダーでしています。もう一つの方法は、稀硝酸につけて鉄の表面を荒らさせます。そこへ箔状のものを貼っていくのです。現在手で目をつけて象眼している産地は熊本の肥後象眼だけで、その中の一部は京都より機械生産されたものが入っています。金沢でも土産屋でみられるものは京都からのものがほとんどです。

  さて、象嵌が金属工芸のどの技法にあたるかというと、彫金技法にあたります。金属工芸には金属を溶解して形状を造ったり、別々の金属を溶かし合わせて異なる性質の金属を造り器物制作する溶解性を利用した鋳金、金属を打ち形づくる延展性を利用した鍛金、金属を削ったり、くっつけたりして形づくる削穿性を利用した彫金があります。


金属を用いることの4つの意味

  金属で造る意味の1つは、金属はいい音が出る。音を出すためにあります。釣鐘がそうです。禅宗のお寺などで磬といった道具をたたきながらお経をあげます。金属の合金によって美音を出しているのです。風鈴なんかもそうです。音が出せる、だから金属で作るのです。そのほかに、熱に強いということです。だから、お茶の釜も金属で作ります。木の釜なんてないです。それから、硬いので武具や刀に使われるように堅牢性があるということです。また何百年、何千年と保てることから仏像が作られたりします。そしてもう1つは、コインとかお金など貴金属性の価値が高いということです。

  このように堅牢性、耐熱性、音が出る美音性、それから貴金属性という4つの特性をいかして金属を用いて制作します。材料として金属を用いる技法は、鋳金、鍛金、彫金と3つあります。象嵌は、この彫金の中に入ってきます。この中にいろいろな細工や技法があって、その中の一部が象嵌です。

  それでは、なぜ鋳物を用いるのかといいますと、金属で大量に、そして奈良の大仏などのように大きな物ができるからです。それから精密なものができる。薬師寺などの薬師如来のような細かな細工のある仏像もできるようになりました。それから大量にできるということで、コインなども鋳物でやっています。


昔、金色だった奈良の大仏

  余談ですが奈良の大仏は、昔金色をしていたのです。大仏は、下からずっと1メートルほどずつ土と土で型をつくって、隙間に金属を流してだんだん造っていくのです。その上には金色の渡金がなされていきます。渡金とは今でいうメッキです。昔は金消しといっていました。金と水銀を混ぜたものを塗っていくのです。塗った表面を火であぶりながらいくと、表面の水銀が飛んで、金だけが残ってメッキされていくのです。奈良の大仏をつくったときには多くの方が水銀中毒で亡くなったと聞いています。皆仏像をつくるということで、亡くなっても「仏のため」と思っていたのではないかと思います。こういうふうにして金(水銀と金を混ぜたアマルガム)を塗りながら、火であぶりながら水銀を飛ばして金だけを残していきました。

鋳金のいろいろな特徴

  それから鋳金の中にもいろいろな技法がありますが、焼き型の方法を一つだけ説明しますと、鋳物は、土で作られた外型と内型の隙間に鋳物を流した後、土を取り除いて形を作ります。しかし土だけの型ではできた鋳物にスができスポンジ状になって良いものができません。そこで中のガスを抜かなければいけないのです。土の中に和紙とか木綿の屑をたくさん入れ土と一緒に混ぜ、その土で型を作り型を一回焼くのです。土の中に入っていた木綿と和紙が燃えて土の中に細かな隙間ができるので、この中に鋳物を流しても、型の中にガスがたまらず、スキ間からガスが出ていってきれいなものができるのです。そういうのを焼き型と言います。美術鋳物などは皆これでやります。

  あと鋳金でやる特徴は、いろいろな合金ができるということです。また合金をつくるというのは大変重要なことで、銅だけでは鋳物は流れないのです。銅の中に錫を入れることを人間が覚えたのが、紀元前3000年頃です。錫を入れることによって、銅だけの場合と違い流れが良くなるのです。合金にすることによって、温度を低くしてかたちをつくることができるのです。これが鋳金のやり方です。


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